すごい作品だった
扱ってるモチーフはそれほど目新しいものはないんだけど、
ロジックや演出が繊細で生々しい
児童文学的な成長と冒険だったり、SFだったりホラーだったり、
支配構造に対する問題提起だったりして、一貫したテーマは見い出せなかった
悪くいえば煩雑、良くいえば奥深い
作中でも言及されるように、これは狙ってこういう複合構造にしたのだろう
面白い
面白いのだが、やはりテーマが一つでないのが気にはなった
人間社会に超能力を加えるとどうなるか
同族殺しをどう制御するかというテーマを主軸にできるかもしれないが、
それにしては最後の展開がバケネズミに傾倒しすぎている
恐らく構想の最初にあったのがこの形なのだろう
弱者を醜い獣たらしめ自覚なき圧政をしく牧歌的な超人たちへの皮肉
そんな風に思える
呪力の根源に関してはもっと深い設定があるのかと思ったが、そうでもないようだ
あくまで舞台設定の道具なのだろう
とにかく登場人物がみんな賢くてそれだけで面白い
筆者は相当賢いんだろうと唸らされる
こういうのは書けない
書けないが書こうとも思わない
僕としては人間の複雑さと醜悪さと清浄さはあまり新鮮なテーマではなくなってしまった
そういう意味では古い
が、やはり面白い
一言ではまとめられない作品といえよう

悪鬼と業魔の設定も面白い
愧死機構という絶対的ルールによって独特の価値観が生まれている
一見ごく個人的な事件である守と真理亜の失踪が、
その子供として話を大きく動かすのもいい
二人の末路としてはスクィーラに匿われたあと自発的に子供を産み、
闇討ちされたと考えるのが自然だろう
こういったミクロレベルでの生々しい策略もこの作品の魅力だ
手放しで名作と称えられない、しかしねっとりとした魅力を持つ作品である

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