海面を見送っていた。
太陽光を散乱し独特の光を放っていた。
あの空間にタバコで穴をあけるような神妙な光である。

暗かった。
深海は幻覚に似ていた。
ごく稀に擦れ違う何かは、強烈なインパクトと共に
数秒後には逆方向へ消えていく。
そしてそれが現実だったのか、
それともそろそろ何かと擦れ違うだろうと思った
自分の心が用意した幻覚なのか、
あまりにも長い何も無さ過ぎる時間がその判別を困難にしていた。
それは深海の住人の日常だった。

概観水深2700m。
結果からいえばあと500m足らずで海底に到達するのだが、
その時には今まで潜ってきたより遥かに遠いような気がしていた。
そして背を向けながらそこへ落ちていくと、
何とも充足した今にぴったり欲しかった満足が得られた。
海底は柔らかかった。

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